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ヴィレの個人用呟き備忘録。美術や読書なんかを中心にまとめるよ。 読むのならあまり信用しないで、気になったら自分で調べた方が良いよ。 飽き性だからいきなりやめるかも
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チューリップ・バブル―人間を狂わせた花の物語 (文春文庫)

文春文庫、マイク・ダッシュ「チューリップ・バブル
人間を狂わせた花の物語」読了。17世紀に起きた世界で最初のバブル経済であるチューリップバブルの背景を丁寧に追った本である。1つの球根で家が購入できるほど、または工場と交換できるほどの高値がついたネーデルラント狂乱の時代を描く

そもそもチューリップはオランダが原産地と言う訳ではなく過酷な山脈山麓で生まれ、トルコを経由してオランダに伝わったのは1570年の事だった。厳しい寒冷地帯に咲く深紅の素朴な花は生命と繁殖の象徴であり、トルコ人達にとって尊い花であった

野草であったこの花が栽培され始めたのは謎が多いが1050年には既にペルシア人の崇拝を集めていた。栽培されたチューリップの改良はおよそ16世紀。イスタンブールチューリップと呼ばれるこの修は細長く、アーモンド型の花形と針のようにとがった花弁を持っていた

オスマントルコにやってきた西洋の大使や使節達はその園芸技術に驚いた。そもそもそれまで土に植える植物を美の対象として見る事はなかった。1560年代ヨーロッパの植物学者は初めてチューリップに出会う。16世紀末になると新しい交配種が次々と誕生する

カロルス・クルシウスが初めてチューリップを知ったのは1563年であると考えられている。後に植物学の先駆者となる彼はチューリップの球根をヨーロッパ
中の文通相手に送り付けた。各地の庭で花を咲かせるチューリップを彼は観察し、植物を薬という面以外から見る視点と分類学の基礎を作り上げた

チューリップは種子と球根どちらからも栽培できるが、種子から育てたものはどんなチューリップが咲くか最後までわからない。また、種子が球根に育ち花が咲くまで約7年ほどかかり、平均寿命が約40歳の時代にはあまりにも長い時間がかかった。球根にできる子球なら母球のクローンだから同じ花が咲く

だが球根が1年に生む子球は2、3個で、増殖させるには相当な時間がかかっていた。しかも研究途中だから効率も悪い。希少価値の高い品種は必然的に供給不足になる。異種の花を近くに植えれば虫が花粉を運び、厳密に言う奇形を作りだす。この複雑な色合いの花を愛好家は求めた

単色の花が翌年には複雑な色合いの花を咲かせる現象をブレーキングといった。この現象は1580年に最初に確認された。これは20世紀に入ってようやくウイルスによる病におかされたものだと判明したのだが、当時のオランダ人達は知る由もなく魔術よろしく様々な研究をする

その間もどんどんチューリップ熱は高まる一方であった。1590年辺り、オランダはヨーロッパ一裕福な国になっていた。裕福な商人達が美しいチューリッ
プを求めて金を注ぎ込む。莫大な財力を持つ当時の政治家でさえ庭に鏡を置き、チューリップ一杯に見せる仕掛けをするほど球根が足りなかった

そこで登場する最高品種センペル・アウグストゥス。無限の皇帝を意味するこの種は存在が12株にも満たず、この種がバブルの前触れとなる。この珍種の花の
全株を持つ一人の男は名すら明かさず、球根を独占していた。大金を注ぎ込まれても売らない球根には3000万ほどの値がついていた

Semper Augustus

どれも同じに見える茶色の球根で何千万という金が動く。しかも花が咲くまで珍種のチューリップかどうかはわからない。後に母球だけでなく成長するかどうかわからない子球の売買まで行われる。さてこの高騰しきったチューリップ経済はどのような最後を迎えるのか?

当時の静物画には本当に様々なチューリップが残されている。斑入りで美しいやけに目立つ巨大な花。当時オランダで活躍していた画家がレンブラントと言う事もあって、現在はこういう斑入りの種をレンブラント咲きっていうんだけど、レンブラントがチューリップの絵を描いたって言うのはあまり聞かないな

むしろレンブラント作「テュルプ博士の解剖学講義」のテュルプ博士はチューリップにはまり過ぎて改名までしてしまっている、こっちのが有名だと思う。この頃のネーデルラント画家は花のブリューゲルをはじめ本当にチューリップの絵が多い

レンブラント作「テュルプ博士の解剖学講義」1632年

正に邯鄲の夢。チューリップを蝕んだ病は人間を狂わせるほどの威力を持った。この病は完治することはないので、今でも見付けたらすぐに抜いて燃やさなければならない。探せばすぐに出るけど、この花が本当に綺麗なのです。抜くのが惜しいほどに

大デュマの「黒いチューリップ」もこの頃を舞台にした物語。伝説ともいえる珍種の黒い花を巡る物語を書いているんだけど、まぁ未読なので。ちなみにチューリップで黒はできずにとっても暗い紫を黒と言ってるだけみたいよ。色素の関係で

およそ日本におけるチューリップバブルの本ではこれが最も詳しく書かれていると思われる。絶版なのが惜しいくらい。あと参考文献が書かれていないのも惜しい


ハンス・ボロンヒール作「チューリップのある静物画」1639年
これのチューリップはセンペル・アウグストゥスみたい
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